『横道世之介』 吉田修一 毎日新聞社 ¥1,680
『神去なあなあ日常』 三浦しおん 徳間書店 ¥1,575
年が明けると本屋大賞の候補作一〇作品が発表となって、「今年はどれかな」と、本を手に考えるのが二月の恒例である。過去六回で、『夜のピクニック』や『東京タワー』『一瞬の風になれ』などが大賞に選ばれていることから、(傾向としては)評判の青春小説、吉田修一『横道世之介』が有力かなと思った。(実際かなり読後感の良い小説でした)
舞台は八〇年代後半の東京。長崎から上京した大学生の日常が、一年間に渡って綴られていく。初めての一人暮らしから、サークル活動やアルバイト、友人との出会いや年上の女性への恋、帰省などなど、なんでもないような出来事をみずみずしく語る。(エピソードだけとればありふれた感じなのだけれども)そこに彼と関わった人たちの「二〇年後」の人生が織り交ぜられることで、物語は厚くなる。彼と出会ったという些細な出来事がそれぞれの人生を大きく変えていくのである。とくにガールフレンドだった彼女の「その後」には驚き以上に感動的。呑気で不器用で素朴で、どこにでもいそうなタイプに見える彼だけれど、読み終えると彼の魅力に気づかされているから不思議。
もう一冊、三浦しおん『神去なあなあ日常』も、読後感がいい物語である。同じく十八歳少年の一年を描くのだが、こちらは三重県の山奥の神去村で林業に勤しむという話。ガテン系の青春小説である。都会っ子には慣れない肉体労働と、独特な風習と環境のなか、(逃げ出したいと思いながらも)やがて仕事を覚え、村の仲間となっていく彼の姿はなんだかほほえましい。「神隠し」や「お祭り」など神秘的な山の世界が広がり、特にラストの御神木に乗っての山くだりの場面は圧巻である。爽やかでユーモラスでもあって、巨匠・宮崎駿が映画にしたいと(帯にある)のも納得の味わい。
本屋大賞の発表は、4月。楽しみに。 (は)