トップ>豊川堂 本屋の新聞 (2/3)
嵐が過ぎ去っていった。

『無理』 奥田英朗 文芸春秋 1,995

『ヘヴン』 川上未映子 講談社 1,470

『「いい人」をやめると楽になる』 曽野綾子 祥伝社黄金文庫 600

 家がみしみしと揺れた。明け方近く外に出ると、見たこともない暴風が吹き荒れていた。伊勢湾台風並みといわれた十八号は、猛威をまざまざと見せつけたけれど、この程度の被害で収まったのはもしかしたら幸いだったのかも(と思ったくらいの、凄まじい嵐)。秋は天気も変わりやすいというけれど、人の心も変わりやすいものである。

奥田英朗の新作『無理』は、ふとしたはずみで人生を嵐に巻き込んでしまった人々を描いた群像劇である。舞台は、東北の寂れた地方都市。鬱屈を抱えながら生きる5人が陥った思いも寄らぬ顛末が描かれる。県庁への復帰を待つ市役所職員、保安員をクビになり新興宗教にのめりこむ中年女、ヤクザと癒着する市議会議員、インチキ商売に邁進する元暴走族、都会生活に憧れる女子高生。(物語はそれぞれが平行して進み)誰もが些細なことから(不幸はなぜか不幸を呼ぶもので)揃って人生を暗転させてゆく。引きこもりに家庭内暴力、生活保護に詐欺商法、世襲政治、遺産相続、老老介護、カルト宗教と、社会の歪みや問題も孕んでいて、みな心の余裕を失くし善意を忘れてしまっているかのよう。それが身につまされる痛々しさを伴って訪れる(何が善で何が悪なのか、言い切れない部分も多分にあったりする)。徐々に追い詰められていく人々の心の動きや描写が実に巧みで、それでいてどこか可笑しさが漂うあたり、まさに一級のエンターテイメント。それぞれの運命が劇的に重なり合うラストは、圧巻である(表紙のイメージがラストシーン)。

美貌で(も)誉れ高い作家の中身は、哲人である。『ヘヴン』は、暴力を題材にして人間の善悪を問う衝撃作。「ロンパリ」と呼ばれ斜視で苛めを受けている十四歳の僕。格好が不潔で同じく苛めにあっている同級生のコジマと心を通わせていく物語。何をされても受け入れることで〈ヘヴン〉にたどり着こうとするコジマの、弱さの中にある強さは強烈で圧倒的だ。途中、苛める側の百瀬と苛められる側の僕との会話の遣りとりの場面が、この物語の白眉。(執拗な苛めも凄まじいのだけれど)哲学的な問いかけこそが、凄まじい。百瀬は苛めの意味すら否定し、斜視がゆえに標的とされたことも否定。苛められる側の気持ちはと尋ねても「人はそれぞれ違う世界に生きているのだ」と、罪悪感すら否定する。百瀬の「すべてのことに意味はない」との反問に、僕はどう答えられるのだろう。

 僕は、コジマが何度も好きだと言ってくれた斜視を治せるかもしれないと告げる。その代償は心の支えを失うことでもあるのだけれど。それにしても僕とコジマの惹かれあっていく場面は悪くない。手紙を交わしていく下りもみずみずしい。大きな感動を持って読まれる作品であると思う。

理不尽なことの多い世の中で、こんな風に考えれば生き方が楽になるという本が俄然注目を集めている。十年前に刊行された作家曽野綾子の言葉を集めた箴言集『「いい人」をやめると楽になる』は、数々の著作の中からエッセイを抜粋し収録したもので、縛られない、失望しない、傷つかない、重荷にならない、気負わない、他人の目を気にしないなど、人はあるがままでいいという処世訓の数々がちりばめられている。

《いい人をやめたのはかなり前からだ。理由は単純で、いい人をやっていると疲れることを知っていたからである。悪い人だという評判は容易に覆らないが、いい人はちょっとそうでない面を見せるだけですぐ批判、評価が変わり棄てられる》

なるほど、言葉の処方箋。建前を否定したその姿勢のひとつひとつに感銘をうける。

 台風一過の朝、大きな虹が架かっていた。嵐には人生を脅かすほどの力があるかもしれないけれど、ひとつの言葉には、そんな人生を救う力もある。 (は)

呉服町春秋 『農業はイケてる』

『ギャル農業』 藤田志穂 中公新書ラクレ ¥735 

 

 私は十年ほど前から家庭菜園を楽しんでいる。冬に畑を掘り起こし土壌の天地換えをする。春先には石灰を蒔き、耕運する。しばらくして肥料を施し畝をつくる。二週間後に種を蒔いたり、苗を植え付ける。あとは放ったらかし。収穫を待つのみ。鳥や虫に食われても自分で作った野菜はとても美味しい。

さて、渋谷のギャルが農業に挑戦する。元年商三億円のギャル社長は若い人が食と農業に興味を持つきっかけになればと、ギャルファッションで農作業をする。「メイクやめたら」と言われるがやめたらテンションが

上がらない。

 若者にとってファッションはとても大事な要素。イケてる農作業着をジーンズのEDWINと組んで開発中。頑張れ「ノギャル」。 (須)

元気を届けたい

『手足のないチアリーダー』 佐野有美 主婦と生活社 ¥1,260

 珍獣ハンター・イモトの激走が感動的だった、今年の24時間テレビ。そこで紹介された豊川市出身の若い女性。彼女には生まれつき手足がない。

家族の苦悩をよそに、彼女は元気いっぱいに育っていく。僅かに残された左足を器用に使い、トイレと着替え以外は何でも自分でできるほど。

学校では明るく活発な性格でクラスの中心的存在となる。時にはその積極性が傲慢とも誤解を受け、孤立する事も。殻に閉じこもった自分を救ってくれたのは家族と仲間たちだった。周囲の人々の大切さを知り、人間として精神的な成長をも遂げていく。豊川高校に進学し、あこがれのチアリーダー部を訪れた際、顧問にこう聞かれた。「あなたのいいところは何?」・・「笑顔と元気です!」。こうして手足のないチアリーダーが誕生した。

 彼女は現在、声を活かした声優などの仕事を目指し、話し方教室で特訓中。

「特別なんかじゃない、普通の女の子です。」彼女は笑顔でそう語っている。 (伊)

古くて新しい日本人論

 『日本辺境論』 内田樹 新潮新書 ¥777

 「日本人とは何ものか?」そんな質問には、言い淀んでしまう人がほとんどではなかろうか。

 本書では、日本人を「辺境人」と呼び、邪馬台国や新渡戸稲造の『武士道』、更にはマンガなどを取り上げ、その特性を喝破していく。

例えば、自分の意見の言えない日本人を著者はこう推察する。

 「『そういうむずかしいこと』は誰かえらい人や頭のいい人が自分の代わりに考えてくれるはずだから、もし意見を徴されたら、それらの意見の中から気に入ったものを採用すればいい。そう思っている」。そんな状態だからこそ「学ぶ姿勢も効率的」だと言う。それが新聞の社説だったり、知識人の意見だったりする。だとすればこの本を読んでいる僕も、生粋の「辺境人」だ。

 誰かの「背中を見て育つ」というのも日本人が生きていく上で編み出した知恵なのかもしれない。

忘れかけていた私たちの特性を、再び教えてくれる一冊だ。 (優)

 

11歳の狙撃手

『小太郎の左腕』 和田竜 小学館 ¥1,575

信長が今川義元を奇襲し(桶狭間の戦)、戦国時代が大きく動き出す数年前。各地では豪族が群雄割拠し、種子島に伝わった鉄砲は未だ合戦の脇役であった頃の物語。

隣接する戸沢・児玉両家では互いに勢力の拡大を図り、今や一触即発の状況に。戸沢家の猛将・林半右衛門は、ある日ふと見かけた子供に、鉄砲の才能を感じ取る。その子供・小太郎は、最強の鉄砲軍団「雑賀衆」に在って、天才的な素質を持つ撃ち手であった。だが、養父・要蔵は、優しき心根を持つ小太郎に人殺しをさせまいと、共に一族を捨て、山中に隠れ住んでいた。

収穫後毎年行なわれる鉄砲試合に、小太郎を引っ張り出す事に成功した半右衛門。彼は、[左構えの種子島]を手にした小太郎の腕前に戦慄を覚えながらも、狙撃手として合戦に連れ出そうと非情な罠をめぐらせる。

デビュー作「のぼうの城」で多くの読者を魅了。新たな時代小説ファンを生み出した和田竜の最新作。 (え)

命より大切なもの

『神様のカルテ』 夏川草介 小学館 ¥1,575

 

 

美しい自然に抱かれた小さな病院の、心温まる命の物語。

主人公・栗原が勤務する病院のモットーは、「24時間365日対応」。患者はいつもあふれかえっているが、医師が足りない。専門外の診療にも追われ、食事や睡眠も十分にとれない毎日。そんな彼に突然、母校の医局から誘いがかかる。医局に入れば休みも収入も増え、最先端の医療を学ぶこともできる。

「でも、大学病院に行くためには、ここを去らなければいけない」

はざまで悩む栗原を決心させたのは、最期を看取ったがん患者の「天国」からの手紙だった。

実際に地域医療に従事した経験を持つ著者。現実社会における医療格差、医師不足、終末医療のあり方などに対する憂いの書でもある。 (池)

手作りバンザイ!

『あれも、これも、おいしい手作り生活。』 まめこ 

          サンクチュアリ・パブリッシング ¥1,260

 

 今まで料理に興味がなかった著者が、姪のために作ったべっこう飴をきっかけに手作り生活に目覚めた。

 本書は、普段購入している既製品(バター・マヨネーズ・味噌)などをおうちで作っちゃおうと、コミック形式で面白く紹介。調理のコツや失敗しやすいポイントもしっかり抑え、写真付・フルカラーで解りやすく解説。春夏秋冬と季節毎にテーマを記した自家製レシピは113種類。手作り食品ならではの魅力が満載で、料理初心者からベテランまで手にとって頂きたい一冊です。

 早速嫁に本を渡した。「練乳って牛乳と砂糖でできるんだ!」「ポン酢が家で作れたらいいよね。」と料理好きだけに色々発見があったようだ。

 「やっぱりできる嫁は違う!」とたまには褒めておかないと・・・。 (川)

日本国家の青春時代

『「坂の上の雲」と日本人』 関川夏央 文春文庫 ¥610

11月下旬からようやく待望のドラマ『坂の上の雲』がはじまる。関連本も最近続々と刊行されているが、その中の1冊。『坂の上の雲』に秘められた多くの謎を解き明かしながら、司馬文学の核心にまで迫る。なぜ明治の文豪である夏目漱石でなく、正岡子規なのか?なぜ司馬遼太郎は乃木将軍の評価が低いのか?

日本の連合艦隊はなぜ対馬海峡でバルチック艦隊と遭遇することができたのか? 

明治維新という無血革命を成し遂げるも、国際社会では赤子同然の三等国・日本に欧米列強が牙をむく。不平等通商条約を改正し、奇跡といわれた日英同盟を締結させる。日清・日露戦争の勝利によって、日本は遂に第一等国へ。坂の上の遥かな雲を追いかけながら、秋山兄弟・子規と同様に、成長を続けた明治の日本国家はまさしく青春を謳歌していた。 

日露戦争勝利から太平洋戦争終結、戦後復興からバブル崩壊。その世代交代、成長と衰退がそれぞれ約40年という周期も興味深い。 (中)

 

伝わる言葉に、笑い泣く。

『声に出して笑える日本語』 立川談四楼 光文社文庫 ¥470

『巡礼』 橋本治 新潮社 ¥1,470

『恋ばっかりもしてられない』 佐藤真由美 幻冬舎文庫 ¥560

 

 「まだ何もしてないのにノーベル賞?」

なんて声もあったけれど、米大統領の「言葉」がそれほど世界中の人々の心を揺さぶったのは確かである。未来への希望を与える言葉は素晴らしいと思う。

的確な言葉は人を感動させるけれど、ほんのちょっとの違いが致命的な笑いを起こすこともある。

『声に出して笑える日本語』は、文字通り笑わないで読むのがまことに困難なエッセイ。落語家が日頃見聞きした「言葉」を集めたもので、これがとにかく可笑しい。「ご遺族は今、悲しみのズンドコに沈んで・・・」「海のモズクと消えた・・・」「ふしだらな娘ですが・・・」「では新郎新婦のご冥福を祈って・・・」「先立つ不幸を・・・」などなど、言い間違いやら勘違いやら覚え違いやらの、ヘンなフレーズがこれでもかと並ぶ(すべて実話というところが、これまたすごい)。さすが言葉の専門家だなと、笑いながら感心するのだけれど、ネタがいくつも頭の中に残ってしまい、以来ふとひとり思い出し笑いしてしまうから、これはやっかいである(突然笑えば他人は変な人と思うでしょう)。

「あいつは凄えよ、身体からオーロラが出ている」の続編も出たものだから、思い出し笑いはさらに増え、近頃なんだか勝手に楽しくなってしまっている。

『巡礼』は、異臭を放つゴミ屋敷に住む老人の物語。TVのワイドショーでも時折取り上げられるような事件であるが、何故男はゴミに埋もれて生活しているのか? 説明のできない男の心理を、その生い立ちから現在に至るまで丹念に辿ることで解き明かしていく。

荒物屋の跡取り息子として生まれた男は順調に歩んでいるように見えたが、五歳の息子を亡くし、姑と不仲だった妻が家を出て、両親も居なくなり、そこから彼の人生は狂い始めていく。始まりは些細なこと、子どものおもちゃを拾ったことからだった。戦後日本の縮図のようにも映る彼の人生。ゴミ屋敷は彼の過去の記憶の山である。高度成長期を過ぎると、ひとり残された家にゴミが積もっていくのに時間はかからなかった。深い絶望的な孤独を抱えた彼は、自分でもどうしてこんなに苦しいのか分かっていないのだけれど、屋敷の中で唯一きれいに残された場所があって、それが露わになる場面には、思わず涙。悲劇的な結末ではあるけれど救いもあって、実にいい小説だと思う。

言葉に出来ない感情を言葉にしていくのは、大変である。そんなもどかしい思いを言葉にしてしまう歌人の短歌は印象に深い。デビューの頃の〈今すぐにキャラメルコーン買ってきて そうじゃなければ妻と別れて〉や〈つまらないセックスをした翌月に 生理がきたらおめでたですね〉が、あまりに衝撃的で、以来ずっと心に残っていたのだけれど、彼女の最新歌集『恋ばっかりもしてられない』に、またしても胸が鳴ってしまった。                                    〈さよならと言ってるわけじゃないけれど そう聞こえてるならそうかも〉      〈はいてきたパンツをはいて帰ります 夏でもないし恋でもないし〉         〈口にしたとたんにそれじゃ足りなくて 嘘になるから好きと言えない〉       〈東京は雪に弱いな あのひとにわたしは弱い 慣れてもいいのに〉

言い得て妙。いや実に素晴らしい感性だなと、あらためて思った。 (は) 

呉服町春秋 『使える英語』

 ステップワールド豊川堂LL英語教室は昭和48年以来、多くの生徒さんが「使える英語」を勉強してグローバルに活躍しています。創設当時は英語を話せることが大切でしたが、今では英語を使って何ができるかが重要になってきました。

 今年も本教室の生徒さんは地区大会を勝ち上がって、[全国ジュニア英語スピーチコンテスト決勝大会]へ小・中学生揃って出場を果たし、小学生の部では優秀賞を獲得できました。

 このコンテストで、審査委員長が「ことばを発して会話することで一番大切なことは、生きていることを感じ、自分の存在を確認することです。これは日本語も英語も同じです。」というコメントを生徒さんへ伝えました。私もそう思います。

 今年も新入生の募集を始めました。子どもさんに「使える英語」を、とお考えの方はぜひ豊川堂へお問い合わせ下さい。