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直木賞に想うこと。

『廃墟に乞う』 佐々木譲 文藝春秋 ¥1,680

『ほかならぬ人へ』 白石一文 祥伝社 ¥1,680

最近の直木賞は功労賞的な要素を多分に含んでいる。「今更この人?」という感じがしないでもない。とはいえ、作品の質にハズレなし。まずは読むべし。

 

道警捜査一課の仙道は、ある事件をきっかけに精神性外傷(PTSD)に陥り休職中だった。にも関わらず、事件の解明を求められる。娼婦に自分の母親を重ねてしまう犯人の暗い過去。(廃墟に乞う)家族を養うため、必死に生活を守る妹思いの兄。(兄の想い)行方不明の娘の捜索を依頼する父親。(消えた娘)等、決して派手な事件展開もなくただ淡々と仙道は解決の糸口を探る。その土地の、家族と生活に溶け込みながら事件を究明する。心に深い傷を負いながらも、刑事としてのカンを少しずつ取り戻し再生する姿を描く。

連作の最後(復帰する朝)の作品で、ようやく彼がなぜ休職せざるを得なかったかが、明らかになる。登場人物たちのの心の痛みがひしひしと伝わってくる作品集だ。

誰もが過去を引きずって生きている。宇津木明生は、秀才の兄二人とは違い、自分は生まれそこないだと感じていた。妻のなずなとの結婚生活は2年で破綻した。幼馴染の根本真一が、どうしても忘れらないと、なずなは家を飛び出した。会社の先輩の東海さんは何かと明生の相談相手になってくれていた。彼女もまた一年半前に離婚していた。どうしてもあきらめ切れない明生は、なずなを待ち続けた。また名家の生まれだった明生には幼い頃から親同士が決めた許婚がいた。だが、彼女・山内渚が好きなのは、三人兄弟の次兄の靖生。靖生は兄嫁の麻里に想いを寄せていた。

「どうやったらそれぞれが〈ちゃんとした組み合わせ〉になれるのだろう?」 死がもたらす残された人への愛情。時間がもたらす自分の成長、或いは亡くなった人への感情の消失。明生の周りで複雑に絡んで、崩れていく人間関係を丁寧に描く。 (中)